大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松江家庭裁判所 昭和37年(家)565号 審判

申立人 永井実(仮名)

相手方 永井弘一(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

本件申立の趣旨は、被相続人永井万造が相手方になしたる松江法務局所属公証人野尻繁一作成第一一四一九号遺言公正証書による別紙物件目録記載不動産並びに動産について三分の一の遺留分の減殺と前記不動産並びに動産について三分の一の割合による遺産分割との各請求であるが、遺留分減殺の請求についての管轄権は家庭裁判所に属せず、地方裁判所に属することは家事審判法第九条並びに民事訴訟法第一九条によつて明かである。しかし遺産分割の請求についての管轄権は、一応家庭裁判所に在ることは家事審判法第九条第一項乙類一〇号、民法第九〇七条によつて明がではあるが、この家庭裁判所の管轄に属せしめられた遺産分割は、遺産であることが明かな、換言すれば遺産の範囲につき争がなく、ただその分割の方法のみについて協議できない場合この協議に代るものとして分割方法を決定する範囲に止まるべきであつて、その範囲について争のあるものは、通常の民事訴訟手続によつてその範囲を確定した後でなければ分割の審判をなす権限を有しないものと解するのを民法九〇七条第一、二項の解釈上相当するし、(広島高等裁判所昭和三十六年五月二十六日決定)このように解さないと遺産分割の審判は形成的裁判で、しかも審判には既判力がないから、別途に民事訴訟手続においてその財産が遺産に属しない旨確定された場合には前になされた遺産分割の審判は不適正となり、変更されなければならなくなるし、反対に審判には既判力がないから審判に不服ある者はその確定後更に遺産の範囲について民事訟訴を提起して争いうるのであるから審判は訴訟による最終結果の判明するまでの一時的仮説的な判断にすぎないこととなりかくては簡易迅速な処理を主眼とする審判手続の趣旨に反し、審判における判断と民事訴訟によつてなされた判断とが相反する結果となるからである。

翻つて本件をみると、その申立の趣旨の前段において遺留分の減殺を請求している部分は前述の理由によつて当裁判所に管轄権はなく、又この請求を前提とする後段の遺産の分割の申立はその遺産の範囲について争があるものといわなければならないから従つてこの申立についても当裁判所に管轄権はなく、いずれも通常の民事訴訟手続によつて確定されるべきものといわなければならない。

以上の理由によつて本件申立は職分管轄に違背した違法を免れないから却下すべく、よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 三好昇)

別紙〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例